い比べていた。贈られた笛を吹きながら自分の去ったあとの御母子がどんなに寂しく月明の景色をながめておられるだろう、自分の弾いた楽器も宮の合わせてくだすったものもそのままで二人の女性にもてあそばれているであろう、御息所も和琴が上手《じょうず》なはずであるなどと思いやりながら寝ているのである。どうしてあんなにりっぱな宮様を衛門督《えもんのかみ》は形式的に大事がっただけで、ほんとうに愛してはいなかったのであろうと大将は不思議に思われてならない。お顔を見て美しく想像したのと違ったところがあっては不幸な結果をもたらすことにもなろう、ほかのことでも空想をし過ぎたことには必然的に幻滅が起こるものであるなど思いながらも、大将は自身たち夫婦の仲を考えて、なんらの見栄《みえ》も気どりも知らぬ少年少女の時に知った恋の今日まで続いて来た年月を数えてみては、夫人が強い驕慢《きょうまん》な妻になっているのに無理でないところがあるとも思われた。
 少し寝入ったかと思うと故人の衛門督がいつか病室で見た時の袿《うちぎ》姿でそばにいて、あの横笛を手に取っていた。夢の中でも故人が笛に心を惹《ひ》かれて出て来たに違いないと思っていると、

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「笛竹に吹きよる風のごとならば末の世長き音《ね》に伝へなん
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 私はもっとほかに望んだことがあったのです」
 と柏木は言うのである。望みということをよく聞いておこうとするうちに、若君が寝おびれて泣く声に目がさめた。この子が長く泣いて乳を吐いたりなどするので、乳母《めのと》が起きて世話をするし、夫人も灯《ひ》を近くへ持って来させて、顔にかかる髪を耳の後ろにはさみながら子を抱いてあやしなどしていた。色白な夫人が胸を拡《ひろ》げて泣く子に乳などをくくめていた。子供も色の白い美しい子であるが、出そうでない乳房《ちぶさ》を与えて母君は慰めようとつとめているのである。大将もそのそばへ来て、
「どう」
 などと言っていた。夜の魔を追い散らすために米なども撒《ま》かれる騒がしさに夢の悲しさも紛らされてゆく大将であった。
「この子は病気になったらしい。はなやかな方に夢中になっていらっしって、おそくなってから月をながめたりなさるって格子をあけさせたりなさるものだから、また物怪《もののけ》がはいって来たのでしょう」
 と若々しい顔をした夫人が恨
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