お努めになった。
「ほんとうにその人なのか。悪い狐《きつね》などが故人を傷つけるためにでたらめを言ってくることがあるから、確かなことを言うがいい。他人の知らぬことで私にだけ合点のゆくことを何か言ってみるがいい。そうすれば少しは信じてもいい」
 院がこうお言いになると、物怪はほろほろと涙を流しながら、悲しそうに泣いた。

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「わが身こそあらぬさまなれそれながら空おぼれする君は君なり
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 恨めしい、恨めしい」
 と泣き叫びながらもさすがに羞恥《しゅうち》を見せるふうが昔の物怪に違う所もなかった。嘘《うそ》でないことからかえってうとましい気がよけいにして情けなくお思われになるので、ものを多く言わすまいと院はされた。
「中宮《ちゅうぐう》に尽くしてくださいますことはうれしい、ありがたいこととはあの世からも見ておりますが、あの世界の人になっては子の愛というものを以前ほど深くは感じないのですか、恨めしいとお思いしたあなたへの執着だけがこんなふうにもなって残っています。その恨みの中でも、生きていますころにほかの人よりも軽くお扱いになったことよりも、夫婦
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