舞をだれもだれもおもしろく見せるのを、皆かわいく院は思召《おぼしめ》した。老いた高官たちは皆落涙をしていた。式部卿の宮も御孫の芸にお鼻の色も変わるほど感動されたのであった。六条院が、
「年のゆくにしたがって酔い泣きをすることがますます烈《はげ》しくなってゆく。衛門督《えもんのかみ》のおかしそうに笑っておられるのが恥ずかしい。歳月はさかさまに進むものではないからね。あなたがたでも老いはのがれられないのですよ」
 と言ってその人の顔を御覧になる。だれよりもまじめに堅くなっていて、偽りでなく身体《からだ》の具合も悪く思われ、おもしろいことも目にとまらぬ気持ちになっている衛門督を、お名ざしになり、酔態に託してこう仰せられるのは戯れらしくはあったが、その人ははっと胸がとどろいて、めぐって来た杯は手に取ってもただ少ししか飲まないのを、院は見とがめになって、御座からたびたび侍者に酒を持たせておつかわしになり、おしいになるのを、困りながら辞退する取りなしなども、平凡な人とは見えず感じよく院はお思いになった。身心の苦痛に堪えられなくなって衛門督はまだ宴の終わらぬうちに辞して帰ったが、悪酔いからさめること
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