監督する舞曲の練習をさせていたから、花散里《はなちるさと》夫人は試楽の見物には出て来なかった。衛門督《えもんのかみ》をこの試楽の日に除外するのは惜しく物足らぬことであると院はお思いになったし、それ以上にまた人の不審を引くことをお恐れにもなって、来るようにと使いをお向けになったが、病の重いことを申して督は出て来ようとしなかった。病気といっても何という名のある病をしているのでもないわけであるが、やましく思う点があるのであろうと、心苦しく思召して、特使をさえもおやりになって招こうとあそばされた。父の大臣も、
「なぜ御辞退をしたかね。何か含むことでもあるように院がお思いになるだろうに。大病というのではないのだから、無理をしても参ったほうがよい」
 と勧めていたところへ再度のお使いが来たのであったから、つらい気持ちをいだきながら参った。それはまだ他の高官などの集まって来ない時分であった。これまでのようにお座敷の御簾《みす》の中へ衛門督をお入れになって、院御自身はまた一つの御簾を隔てた奥のお居間においでになった。噂《うわさ》のとおりに非常に痩せて顔色が悪かった。平生もはなやかな派手《はで》な美しさ
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