なって、その人の弱さにさえ反感に似たようなものをお覚えになった。尚侍が以前から希望していたとおりに尼になったことをお聞きになった時には、さすがに残念な気がされてすぐに手紙をお書きになった。その場合に臨んで、されてよい予報のなかったことをお恨みになる言葉がつづられてあった。
[#ここから2字下げ]
あまの世をよそに聞かめや須磨《すま》の浦に藻塩《もしほ》垂《た》れしもたれならなくに
[#ここから1字下げ]
人世の無常さを味わい尽くしながらも、今日まで出家を実行しえない私を、あなたはどんなに冷淡になっておいでになってもさすがに回向《えこう》の人数の中にはお入れくださるであろうと、頼みにされるところもあります。
[#ここで字下げ終わり]
などという長いお文《ふみ》であった。早くからの志であったが、六条院がお引きとめになるために、それでない表面の理由は別として、尚侍は尼になるのを躊躇《ちゅうちょ》するところがあったのでさえあるから、このお手紙を見て青春時代から今日までの二人のつながりの深さも今さらに思われて身にしむ尚侍であった。返事はもう今後書きかわすことのない終わりのものとして心をこめ
前へ
次へ
全127ページ中105ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング