王へは、
「東の院にいる常陸《ひたち》の宮の女王がずっと病気をしておられるのですが、ここの取り込みに紛れて見舞ってあげなかったのがかわいそうなのだが、昼間は人目に立ってよろしくないから夜になってから出かけてみようと思います。だれにも知らせないことだからそのつもりにしておくのですよ」
と、お言いになって、院は外出の化粧におかかりになったが、ただ事とは思われなかった。平生はそんなにしてお行きになる所ではないのであるから夫人は不審をいだいたが、思い合わされることもないではないのを、女三《にょさん》の宮《みや》がおいでになってからは、以前のように思うことをすぐに言う習慣も女王は改めていて、素知らぬふうを作っているのであった。
この日は寝殿へもお行きにならないでただ手紙をお書きかわしになっただけである。熱心に薫香《たきもの》の香を袖《そで》につけて、院は日の暮れるのを待っておいでになった。そしてきわめて親しい人を四、五人だけおつれになり、昔の微行《しのびあるき》に用いられた簡単な網代車《あじろぐるま》でお出かけになった。
六条院のおいでになったことが伝えられると、
「どうしてでしょう。私の
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