でならぬ御様子が見えるお文《ふみ》であった。紫夫人へもお手紙があった。
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幼い娘が、何を理解することもまだできぬままでそちらへ行っておりますが、邪気のないものとしてお許しになってお世話をおやきください。あなたには縁故がないわけでもないのですから。
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そむきにしこの世に残る心こそ入る山みちの絆《ほだし》なりけれ
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親の心の闇《やみ》を隠そうともしませんでこの手紙を差し上げるのもはばかり多く思われます。
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というのであった。院も御覧になって、
「御同情すべきお手紙ですから、あなたからも丁寧にお返事を書いておあげなさい」
こうお言いになって、そのお使いへは女房を出して酒をお勧めになった。
「どう書いてよろしいのかわかりません。お返事がいたしにくうございます」
と女王は言っていたが、言葉を飾る必要のある場合のお返事でもなかったから、ただ感じただけを、
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そむく世のうしろめたくばさりがたき絆《ほだし》を強《し》ひてかけなはなれそ
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こんな歌にして
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