う一晩だけは世間並みの義理を私に立てさせてやると思って、行くのを許してください。今日からあとに続けてあちらへばかり行くようなことをする私であったなら、私自身がまず自身を軽蔑《けいべつ》するでしょうね。しかしまた院がどうお思いになることだか」
 と、お言いになりながら煩悶《はんもん》をされる様子がお気の毒であった。夫人は少し微笑をして、
「それ御覧なさいませ。御自身のお心だってお決まりにならないのでしょう。ですもの、道理のあるのが強味ともいっておられませんわ」
 絶望的にこう女王に言われては、恥ずかしくさえ院はお思われになって、頬杖《ほおづえ》を突きながらうっとりと横になっておいでになった。紫の女王は硯《すずり》を引き寄せて無駄《むだ》書きを始めていた。

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目に近くうつれば変はる世の中を行く末遠く頼みけるかな
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 と書き、またそうした意味の古歌なども書かれていく紙を、院は手に取ってお読みになり夫人の気持ちをお憐《あわれ》みになった。

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命こそ絶ゆとも絶えめ定めなき世の常ならぬ中の契りを
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