覚えておいでになるふうであった。朱雀《すざく》院も御病気であって心細いお気持ちもあそばされる時であったから、冷静なふうなどはお作りになることができずにしおしおとした御様子をお見せになり、昔の話、今の話を弱々しい声であそばすのであったが、
「今日か、明日かと思われるような重態でいて、しかも生き続けていることに油断をして、希望の出家も遂げないで亡《な》くなるようなことがあってはと奮発をして実行したのですよ。こうなっても生命《いのち》がなければしたい仏勤めもできないでしょうが、まず仮にも一つの線を出ておいて、はげしいお勤めはできないでも念仏だけでもしておきたいと思います。私のような者が今日生きているということはこの志だけは遂げたいという望みに燃えていたのを仏が憐《あわれ》んでくだすったのだと自分でもわかっているのに、まだお勤めらしいこともしていないのを仏に相済まなく思います」
 御出家についての感想をこうお述べあそばしたのに続いて、
「女の子を幾人も残して行くことが気がかりです。その中で母も添っていない子で、だれに託しておけばよいかわからぬような子のために最も私は苦悶《くもん》しています」

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