少しもおふるまいにならないのである。世人のささげている尊敬の意も信頼の心も並み並みではないのであるが、外出の儀式なども簡単にあそばして、たいそうでない車に召され、お供の高官などは車で従って参った。朱雀院法皇はこの御訪問を非常にお喜びになって、御病苦も忍ぶようにあそばされて御面会になった。形式にはかかわらずに御病室へ六条院の今一つの座をお設けになって招ぜられたのである。御髪《みぐし》をお剃《そ》り捨てになった御兄の院を御覧になった時、すべての世界が暗くなったように思召されて、悲歎《ひたん》のとめようもない。ためらうことなくすぐにお言葉が出た。
「故院がお崩《かく》れになりましたころから、人生の無常が深く私にも思われまして、出家の願いを起こしながらも心弱く何かのことに次々引きとめられておりまして、ついにあなた様が先にこの姿をあそばすまでになってしまいました。自分はなんというふがいなさであろうと恥ずかしくてなりません。一身だけでは何でもなく出離《しゅつり》の決心はつくのでございますが、周囲を顧慮いたします点で実行はなかなかできないことでございます」
と、お言いになって、慰めえないお悲しみを
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