けて君し思はばわれも頼まん)と歌った。命ぜられて頭《とうの》中将が色の濃い、ことに房《ふさ》の長い藤を折って来て源中将の杯の台に置き添えた。源中将は杯を取ったが、酒の注《つ》がれる迷惑を顔に現わしている時、大臣は、
[#ここから2字下げ]
紫にかごとはかけん藤の花まつより過ぎてうれたけれども
[#ここで字下げ終わり]
と歌った。杯を持ちながら頭を下げて謝意を表した源中将はよい形であった。
[#ここから2字下げ]
いく返り露けき春をすぐしきて花の紐《ひも》とく折に逢《あ》ふらん
[#ここで字下げ終わり]
と歌った源中将は杯を頭中将にさした。
[#ここから2字下げ]
たをやめの袖にまがへる藤の花見る人からや色もまさらん
[#ここで字下げ終わり]
頭中将の歌である。二男以下にもその型で杯がまわされ「みさかな」の歌がそれぞれ出たわけであるが、酔っている人たちの作ったものであったから、以上の三首よりよいというものもなかった。七日の夕月夜の中に池がほの白く浮かんで見えた。大臣の言葉のように、春の花が皆散ったあとで若葉もありなしの木の梢《こずえ》の寂しいこのごろに、横が長く出た松の
前へ
次へ
全33ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング