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わが宿の藤の色濃き黄昏《たそがれ》にたづねやはこぬ春の名残《なごり》を
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とあった。歌われてあるとおりにすぐれた藤の花の枝にそれは付けてあった。使いを受けた中将は心のときめくのを覚えた。そして恐縮の意を返事した。
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なかなかに折りやまどはん藤の花たそがれ時のたどたどしくば
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というのである。
「気おくれがして歌になりませんよ。直してください」
と宰相中将は従兄《いとこ》に言った。
「お供して行きましょう」
「窮屈な随身《ずいじん》はいやですよ」
と言って、源中将は従兄を帰した。中将は父の源氏の居間へ行って、頭中将が使いに来たことを言って内大臣の歌を見せた。
「ほかの意味があってお招きになるのかもしれない。そんなふうな態度に出てくればおもしろくなかった旧恨というものも消されるだろう。どうだね」
と源氏は言った。婿の親として源氏はこんなに自尊心が強かった。
「そんな意味でもないでしょう。対《たい》の前の藤が例年よりもみごとに咲いていますからこのごろの閑暇《ひま》なころに音楽の合奏でもしよう
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