なって雨風の中をこの人たちはそれぞれ急ぎ立てられるように家へ帰った。宰相中将は大臣がどうして平生と違った言葉を自分にかけたのであろうと、無関心でいる時のない恋人の家のことであるから、何でもないことも耳にとまって、いろいろな想像を描いていた。
 長い年月の間純情をもって雲井の雁を思っていた宰相中将の心が通じたのか、内大臣は昔のその人とは思われないほど謙遜《けんそん》な娘の親の心になって宰相中将を招くのにわざとらしくない機会を、しかも最もふさわしいような機会のあるのを願っていたが、四月の初めに庭の藤《ふじ》の花が美しく咲いて、すぐれた紫の花房《はなぶさ》のなびき合うながめを、もてはやしもせずに過ごしてしまうのが残念になって、音楽の遊びを家でした時に、藤の花が夕方になっていっそう鮮明に美しく見えるからといって、長男の頭《とうの》中将を使いにして源中将を迎えにやった。
「極楽寺の花|蔭《かげ》ではお話もゆっくりとする間のありませんでしたことが遺憾でなりませんでした。それでもしお閑暇《ひま》があるようでしたらおいでくださいませんか」
 というのが大臣の伝えさせた言葉である。手紙には、

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