された。「賀王恩《がおうおん》」という曲が奏されて、太政大臣の子息の十歳ぐらいの子が非常におもしろく舞った。帝は御衣を脱《ぬ》いで賜い、父の太政大臣が階前でお礼の舞踏をした。主人の院はお折らせになった菊を大臣へお授けになるのであったが、青海波《せいがいは》の時を思い出しておいでになった。
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色まさる籬《まがき》の菊もをりをりに袖《そで》打ちかけし秋を恋ふらし
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当時ごいっしょに舞った大臣は、自身も人にすぐれた幸福は得ていながらも、帝の御子であらせられた院の到達された所と自身とは非常な相違のあることに気がついた。時雨《しぐれ》は彼の出て来るおりをうかがっていたようにはらはらと降りそそいだ。
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「紫の雲にまがへる菊の花濁りなき世の星かとぞ見る
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最もふさわしい時に咲いた花でございます」
と大臣は院へ申し上げた。夕風が蒔《ま》き敷く紅葉のいろいろと、遠い渡殿《わたどの》に敷かれた錦《にしき》の濃淡と、どれがどれとも見分けられない庭のほうに、美しい貴族の家の子などが、白橡《しろつるばみ》、
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