臙脂《えんじ》、赤紫などの上着を着て、ほんの額だけにみずらを結い、短い曲をほのかに舞って紅葉の木蔭《こかげ》へはいって行く、こんなことが夜の闇《やみ》に消されてしまうかと惜しまれた。奏楽所などは大形《おおぎょう》に作ってはなくて、すぐに御前での管絃《かんげん》の合奏が始まった。御書所の役人に御物の楽器が召された。夜がおもしろく更《ふ》けたころに楽器類が御前にそろった。「宇陀《うだ》の法師」の昔のままの音を朱雀《すざく》院は珍しくお聞きになり、身にしむようにもお感じになった。

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秋をへて時雨ふりぬる里人もかかる紅葉《もみじ》の折りをこそみね
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 現今の御境遇を寂しがっておいでになるような御製である。
 帝が、

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世の常の紅葉とや見るいにしへのためしにひける庭の錦を
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 と朱雀院へ御説明的に申された。帝の御容貌はますますお美しくおなりになるばかりであった。今ではまったく六条院と同じお顔にお見えになるのであるが、侍している源中納言の顔までが同じ物に見えるのは、この人として過分なしあわせであった
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