て大臣の心はしんみりと濡《ぬ》れていった。中納言は美しい顔を少し赤らめて舅《しゅうと》の前にいた。美しい若夫婦ではあるが、女のほうはこれほどの容貌《ようぼう》がほかにないわけはないと見える程度の美人であった。男はあくまでもきれいであった。老いた女房などは大臣の来訪に得意な気持ちになって、古い古い時代の話などをし出すのであった。そこに出たままになっていた二人の歌の書いた紙を取って、大臣は読んだが、しおれたふうになった。
「ここの水に聞きたいことが私にもあるが、今日は縁起を祝ってそれを言わないことにしよう」
 と言って、大臣は、

[#ここから2字下げ]
そのかみの老い木はうべも朽ちにけり植ゑし小松も苔《こけ》生《お》ひにけり
[#ここで字下げ終わり]

 この歌を告げた。中納言の乳母《めのと》の宰相の君は、あの当時の大臣の処置に憤慨して、今も恨めしがっているのであったから、得意な気持ちで大臣に言った。

[#ここから2字下げ]
いづれをも蔭《かげ》とぞ頼む二葉より根ざしかはせる松の末々
[#ここで字下げ終わり]

 この感想がどの女房の歌にも出てくるのを中納言は快く思った。雲井の雁はむや
前へ 次へ
全33ページ中28ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング