《すすき》が思うぞんぶんに拡《ひろ》がってしまったりしたのを整理させ、流れの水草を掻《か》き取らせもして快いながめもできるようになった。
 美しい夕方の庭の景色《けしき》を二人でながめながら、冷たい手に引き分けられてしまった少年の日の恋の思い出を語っていたが、恋しく思われることもまた多かった。当時の女房たちは自分をどう思って見たであろうと雲井の雁は恥ずかしく思っていた。祖母の宮に付いていた女房で、今までまだそれぞれの部屋《へや》に住んでいた女房などが出て来て、新夫婦がここへ住むことになったのを喜んでいた。
 源中納言、

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なれこそは岩もるあるじ見し人の行くへは知るや宿の真清水《ましみづ》
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 夫人、

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なき人は影だに見えずつれなくて心をやれるいさらゐの水
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 などと言い合っている時に、太政大臣は宮中から出た帰途にこの家の前を通って、紅葉《もみじ》の色に促されて立ち寄った。宮がお住まいになった当時にも変わらず、幾つの棟《むね》に分かれた建物を上手《じょうず》にはなやかに住みなしているのを見
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