結婚をなさる御運だった」
 とつぶやいた夜のことが中納言にはよく思い出されるのであったから、美しい白菊が紫を帯びて来た枝を大輔に渡して、

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「あさみどりわか葉の菊をつゆにても濃き紫の色とかけきや
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 みじめな立場にいて聞いたあなたの言葉は忘れないよ」
 と朗らかに微笑して言った。乳母《めのと》は恥ずかしくも思ったが、気の毒なことだったとも思いおかわいらしい恨みであるとも思った。

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「二葉より名だたる園の菊なればあさき色わく露もなかりき
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 どんなに憎らしく思召《おぼしめ》したでしょう」
 と物|馴《な》れたふうに言って心苦しがった。納言になったために来客も多くなり、この住居《すまい》が不便になって、源中納言はお亡《な》くなりになった祖母の宮の三条殿へ引き移った。少し荒れていたのをよく修理して、宮の住んでおいでになった御殿の装飾を新しくして夫婦のいる所にした。二人にとっては昔を取り返しえた気のする家である。庭の木の小さかったのが大きくなって広い蔭《かげ》を作るようになっていたり、ひとむら薄
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