今日あらはるる袖《そで》のしづくを
[#ここで字下げ終わり]

 などと手紙はなれなれしく書いてあった。大臣は笑顔《えがお》をして、
「字が非常に上手《じょうず》になったね」
 などと言っていることも昔とはたいした変わりようである。返事の歌を詠《よ》みにくそうにしている娘を見て、
「どうしたというものだ。見苦しい」
 と言って、雲井の雁が父をはばかる気持ちも察して大臣は去ってしまった。手紙の使いは派手《はで》な纏頭《てんとう》を得た。そして頭中将が饗応《きょうおう》の役を勤めたのであった。始終隠して手紙を届けに来た人は、はじめて真人間として扱われる気がした。これは右近《うこん》の丞《じょう》で宰相中将の手もとに使っている男であった。
 源氏も内大臣邸であった前夜のことを知った。宰相中将が平生よりも輝いた顔をして出て来たのを見て、
「今朝《けさ》はどうしたか、もう手紙は書いたか。聡明《そうめい》な人も恋愛では締まりのないことをするようにもなるものだが、最初の関係を尊重して、しかもあくせくとあせりもせず自然に解決される時を待っていた点で、平凡人でないことを認めるよ。内大臣があまりに強硬な態
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