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「もりにけるきくだの関の河口の浅きにのみはおはせざらなん
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 長い年月に堆積《たいせき》した苦悩と、今夜の酒の酔いで私はもう何もわからなくなった」
 と酔いに託して帳台の内の人になった。宰相中将は夜の明けるのも気がつかない長寝をしていた。女房たちが気をもんでいるのを見て、大臣は、
「得意になった朝寝だね」
 と言っていた。そしてすっかり明るくなってから源中将は帰って行った。この中将の寝起き姿を見た人は美しく思ったことであろう。
 第一夜の翌朝の手紙も以前の続きで忍んで送られたのであるが、はばかる必要のない日になって、かえって雲井の雁が返事の書けないふうであるのを、蓮葉《はすっぱ》な女房たちは肱《ひじ》を突き合って笑っている所へ大臣が出て来て手紙を読んでみた。雲井の雁はますます羞恥《しゅうち》に堪えられなくなった。
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やはり昔と同じように冷ややかなあなたに逢っていよいよ自分が哀れな者に思われるのですが、おさえられぬ恋からまたこの手紙を書くのです。

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咎《とが》むなよ忍びにしぼる手もたゆみ
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