が、源中将はりっぱな公子であったから、ぜひ妹との結婚を成立させたいとはこの人の念願だったことであって、満足を感じながら従弟《いとこ》を妹の所へ導いた。宰相中将はこうした立場を与えられるに至った夢のような運命の変わりようにも自己の優越を感じた。雲井《くもい》の雁《かり》はすっかり恥ずかしがっているのであったが、別れた時に比べてさらに美しい貴女《きじょ》になっていた。
「みじめな失恋者で終わらなければならなかった私が、こうして許しを受けてあなたの良人《おっと》になり得たのは、あなたに対する熱誠がしからしめたのですよ。だのにあなたは無関心に冷ややかにしておいでになる」
と男は恨んだ。
「少将の歌われた『葦垣《あしがき》』の歌詞を聞きましたか。ひどい人だ。『河口《かはぐち》の』(河口の関のあら垣《がき》や守れどもいでてわが寝ぬや忍び忍びに)と私は返しに謡《うた》いたかった」
女はあらわな言葉に羞恥《しゅうち》を感じて、
[#ここから1字下げ]
「浅き名を言ひ流しける河口はいかがもらしし関のあら垣
[#ここで字下げ終わり]
いけないことでしたわ」
と言う様子が娘らしい。男は少し笑って
前へ
次へ
全33ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング