持っていた蘭《ふじばかま》のきれいな花を御簾《みす》の下から中へ入れて、
「この花も今の私たちにふさわしい花ですから」
と言って、玉鬘が受け取るまで放さずにいたので、やむをえず手を出して取ろうとする袖《そで》を中将は引いた。
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「おなじ野の露にやつるる藤袴《ふぢばかま》哀れはかけよかごとばかりも
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道のはてなる(東路《あづまぢ》の道のはてなる常陸帯《ひたちおび》のかごとばかりも逢はんとぞ思ふ)」
こんなことが言いかけられたのであった。玉鬘にとっては思いがけぬことに当惑を感じながらも、気づかないふうをして、少しずつ身を後ろへ引いて行った。
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「たづぬるに遥《はる》けき野辺《のべ》の露ならばうす紫やかごとならまし
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従姉《いとこ》ということは事実だからいいでしょう。そのほかのことは何も」
と言うと、中将は少し笑って、
「その事実のほかに考えてくださらなければならないこともおわかりになるはずですがね。常識ではもったいないことだと思っているのですが、この感情はおさえられるものでないので
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