なかったのであるが、風は巌《いわ》も動かすという言葉に真理がある、慎み深い貴女《きじょ》も風のために端へ出ておられて、自分に珍しい喜びを与えたのであると中将は思ったのであった。家司《けいし》たちが出て来て、
「たいへんな風力でございます。北東から来るのでございますから、こちらはいくぶんよろしいわけでございます。馬場殿と南の釣殿《つりどの》などは危険に思われます」
 などと主人に報告して、下人《げにん》にはいろいろな命令を下していた。
「中将はどこから来たか」
「三条の宮にいたのでございますが、風が強くなりそうだと人が申すものですから、心配でこちらへ出て参りました。あちらではお一方《ひとかた》きりなのですから心細そうになさいまして、風の音なども若い子のように恐ろしがっていられますからお気の毒に存じまして、またあちらへ参ろうと思います」
 と中将は言った。
「ほんとうにそうだ。早く行くがいいね。年がいって若い子になるということは不思議なようでも実は皆そうなのだね」
 と源氏は大宮に御同情していた。
[#ここから1字下げ]
騒がしい天気でございますから、いかがとお案じしておりますが、この朝臣
前へ 次へ
全24ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング