ふうの秋草を女王《にょおう》は縁の近くに出てながめていた。源氏は小姫君の所にいたころであったが、中将が来て東の渡殿《わたどの》の衝立《ついたて》の上から妻戸の開いた中を何心もなく見ると女房がおおぜいいた。中将は立ちどまって音をさせぬようにしてのぞいていた。屏風《びょうぶ》なども風のはげしいために皆畳み寄せてあったから、ずっと先のほうもよく見えるのであるが、そこの縁付きの座敷にいる一女性が中将の目にはいった。女房たちと混同して見える姿ではない。気高《けだか》くてきれいで、さっと匂《にお》いの立つ気がして、春の曙《あけぼの》の霞《かすみ》の中から美しい樺桜《かばざくら》の咲き乱れたのを見いだしたような気がした。夢中になってながめる者の顔にまで愛嬌《あいきょう》が反映するほどである。かつて見たことのない麗人である。御簾《みす》の吹き上げられるのを、女房たちがおさえ歩くのを見ながら、どうしたのかその人が笑った。非常に美しかった。草花に同情して奥へもはいらずに紫の女王がいたのである。女房もきれいな人ばかりがいるようであっても、そんなほうへは目が移らない。父の大臣が自分に接近する機会を与えないのは
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