であるが、人の美貌はそんなものではないのである。だれも女房がそばへ出て来ない間、親しいふうに二人の男女は語っていたが、どうしたのかまじめな顔をして源氏が立ち上がった。玉鬘が、

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吹き乱る風のけしきに女郎花《をみなへし》萎《しを》れしぬべきここちこそすれ
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 と言った。これはその人の言うのが中将に聞こえたのではなくて、源氏が口にした時に知ったのである。不快なことがまた好奇心を引きもして、もう少し見きわめたいと中将は思ったが、近くにいたことを見られまいとしてそこから退《の》いていた。源氏が、

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「しら露に靡《なび》かましかば女郎花荒き風にはしをれざらまし
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 弱竹《なよたけ》をお手本になさい」
 と言ったと思ったのは、中将の僻耳《ひがみみ》であったかもしれぬが、それも気持ちの悪い会話だとその人は聞いたのであった。
 花散里《はなちるさと》の所へそこからすぐに源氏は行った。今朝《けさ》の肌《はだ》寒さに促されたように、年を取った女房たちが裁ち物などを夫人の座敷でしていた。細櫃《ほそびつ》の上で
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