美しさが浮き出して見えた。髪の手ざわりの冷たいことなども艶《えん》な気がして、恥ずかしそうにしている様子が可憐《かれん》であった源氏は立ち去る気になれないのである。
「始終こちらを見まわって篝を絶やさぬようにするがいい。暑いころ、月のない間は庭に光のないのは気味の悪いものだからね」
 と右近の丞に言っていた。

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「篝火に立ち添ふ恋の煙こそ世には絶えせぬ焔《ほのほ》なりけれ
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 いつまでもこの状態でいなければならないのでしょう、苦しい下燃えというものですよ」
 玉鬘にはこう言った。女はまた奇怪なことがささやかれると思って、

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「行方《ゆくへ》なき空に消《け》ちてよかがり火のたよりにたぐふ煙とならば
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 人が不思議に思います」
 と言った。源氏は困ったように見えた。
「さあ帰りますよ」
 源氏が御簾《みす》から出る時に、東の対のほうに上手《じょうず》な笛が十三|絃《げん》の琴に合わせて鳴っているのが聞こえた。それは始終中将といっしょに遊んでいる公達《きんだち》のすさびであった。
「頭《とうの
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