てあった。桜も山吹も並み並みでなくすぐれた花房《はなぶさ》のものがそろえられてあった。南の御殿の山ぎわの所から、船が中宮の御殿の前へ来るころに、微風が出て瓶の桜が少し水の上へ散っていた。うららかに晴れたその霞の中から、この花の使者を乗せた船の出て来た形は艶《えん》であった。天幕をこちらの庭へ移すことはせずに、左へ出た廊を楽舎のようにして、腰掛けを並べて楽は吹奏されていたのである。童女たちは階梯《きざはし》の下へ行って花を差し上げた。香炉を持って仏事の席を練っていた公達《きんだち》がそれを取り次いで仏前へ供えた。紫の女王の手紙は子息の源中将が持って来た。

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花園の胡蝶《こてふ》をさへや下草に秋まつ虫はうとく見るらん
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 というのである。中宮はあの紅葉《もみじ》に対しての歌であると微笑して見ておいでになった。昨日《きのう》招かれて行った女房たちも春をおけなしになることはできますまいと、すっかり春に降参して言っていた。うららかな鶯《うぐいす》の声と鳥の楽が混じり、池の水鳥も自由に場所を変えてさえずる時に、吹奏楽が終わりの急な破《は》になったの
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