の中に、昔親の少弐が知っていた僧の残っているのを呼び寄せて、案内をさせたのである。
「このつぎには、仏様の中で長谷《はせ》の観音様は霊験のいちじるしいものがあると支那《しな》にまで聞こえているそうですから、お参りになれば、遠国にいて長く苦労をなすった姫君をきっとお憐《あわれ》みになってよいことがあるでしょう」
また豊後介は姫君に長谷詣《はせもう》でを勧めて実行させた。船や車を用いずに徒歩で行くことにさせたのである。かつて経験しない長い路《みち》を歩くことは姫君に苦しかったが、人が勧めるとおりにして、つらさを忍んで夢中で歩いて行った。自分は前生にどんな重い罪障があってこの苦しみに堪えねばならないのであろう、母君はもう死んでおいでになるにしても、自分を愛してくださるならその国へ自分をつれて行ってほしい。しかしまだ生きておいでになるのならお顔の見られるようにしていただきたいと姫君は観音を念じていた。姫君は母の顔を覚えていなかった。ただ漠然《ばくぜん》と親というものの面影を今日《きょう》まで心に作って来ているだけであったが、こうした苦難に身を置いては、いっそう親というものの恋しさが切実に感ぜ
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