であった。今さら肥前へ帰るのも恥ずかしくてできないことであった。思慮の足りなかったことを豊後介は後悔するばかりであるが、つれて来た郎党も何かの口実を作って一人去り二人去り、九州へ逃げて帰る者ばかりであった。無力な失職者になっている長男に同情したようなことを母のおとど[#「おとど」に傍点]が言うと、
「私などのことは何でもありません。姫君を護《まも》っていることができれば、自分の郎党などは一人もなくなってもいいのですよ。どんなに自分らが強力な豪族になったっても、姫君をああした野蛮な連中に取られてしまえば、精神的に死んでしまったのも同然ですよ」
 と豊後介は慰めるのであった。
「神仏のお力にすがればきっと望みの所へ導いてくださるでしょうから、お詣《まい》りをなさるがいいと思います。ここから近い八幡《やわた》の宮は九州の松浦、箱崎《はこざき》と同じ神様なのですから、あちらをお立ちになる時、お立てになった願もありますから、神の庇護で無事に帰京しましたというお礼参りをなさいませ」
 と豊後介は言って、姫君に八幡詣《やわたまい》りをさせた。八幡のことにくわしい人に聞いておいて、御師《おし》という者
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