に成り切っていないところがありましてね、自分は結婚のできない身体《からだ》だとあきらめていますが、かわいそうでも、私どもの力ではどうにもならないのでございます」
 と、おとど[#「おとど」に傍点]は言った。
「決して遠慮をなさるには及びませんよ。どんな盲目《めくら》でも、いざりでも私は護《まも》っていってあげます。我輩《わがはい》が人並みの身体に直してあげますよ。肥後一国の神仏は我輩の意志どおりに何事も加勢してくれますからね」
 などと監《げん》は誇っていた。結婚の日どりも何日《いつ》ごろというようなことを監が言うと、おとど[#「おとど」に傍点]のほうでは、今月は春の季の終わりで結婚によろしくないというような田舎めいた口実で断わる。縁側から下《お》りて行く時になって、監は歌を作って見せたくなった。やや長く考えてから言い出す。

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「君にもし心たがはば松浦《まつら》なるかがみの神をかけて誓はん
[#ここで字下げ終わり]

 この和歌は我輩の偽らない感情がうまく表現できたと思います」
 と監は笑顔《えがお》を見せた。おとど[#「おとど」に傍点]はすべてのことが調子はず
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