れな田舎武士に、返歌などをする気にはなれないのであったが、娘たちに歌を詠《よ》めと言うと、
「私など、お母さんだってそうでしょう。自失している体《てい》よ」
 こう言って聞かない。おとど[#「おとど」に傍点]は興味のない返歌をやっと出まかせふうに言った。

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年を経て祈る心のたがひなばかがみの神をつらしとや見ん
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 先刻からの気味悪さにおとど[#「おとど」に傍点]は慄《ふる》え声になっていた。
「お待ちなさい。そのお返事の内容だが」
 監《げん》がのっそりと寄って来て、腑《ふ》に落ちぬという顔をするのを見て、おとど[#「おとど」に傍点]は真青《まっさお》になってしまった。娘たちはあんなに言っていたものの、こうなっては気強く笑って出て行った。
「それはね、お嬢様が世間並みの方でないことから、母がこの御縁の成立した時に、恨めしくお思いにならないかということを、もうぼけております母が神様のお名などを入れて、変に詠《よ》んだだけの歌ですよ」
 とこじつけて聞かせた。正解したところで求婚者へのお愛想《あいそ》歌なのであるが、
「ああもっとも、もっと
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