分のしたことで人をそこなった後悔が起こってきてならない。まして多情な生活をしては年が行ったあとでどんなに後悔することが多いだろう。人ほど軽率なことはしないでいる男だと思っていた私でさえこうだから」
源氏は尚侍の話をする時にも涙を少しこぼした。
「あなたが眼中にも置かないように軽蔑《けいべつ》している山荘の女は、身分以上に貴婦人の資格というものを皆そろえて持った人ですがね、思い上がってますますよく見えるのも人によることですから、私はその点をその人によけいなもののようにも見ておりますがね。私はまだずっと下の階級に属する女性たちを知らないが、私の見た範囲でもすぐれた人はなかなかないものですよ。東の院に置いてある人の善良さは、若い時から今まで一貫しています。愛すべき人ですよ。ああはいかないものですよ。私たちは青春時代から信じ合った、そしてつつましい恋を続けてきたものです。今になって別れ別れになることなどはできませんよ。私は深く愛しています」
こんな話に夜はふけていった。月はいよいよ澄んで美しい。夫人が、
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氷とぢ岩間の水は行き悩み空澄む月の影ぞ流るる
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と言いながら、外を見るために少し傾けた顔が美しかった。髪の性質《たち》、顔だちが恋しい故人の宮にそっくりな気がして、源氏はうれしかった。少し外に分けられていた心も取り返されるものと思われた。鴛鴦《おしどり》の鳴いているのを聞いて、源氏は、
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かきつめて昔恋しき雪もよに哀れを添ふる鴛鴦《をし》のうきねか
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と言っていた。
寝室にはいってからも源氏は中宮の御事を恋しく思いながら眠りについたのであったが、夢のようにでもなくほのかに宮の面影が見えた。非常にお恨めしいふうで、
「あんなに秘密を守るとお言いになりましたけれど、私たちのした過失《あやまち》はもう知れてしまって、私は恥ずかしい思いと苦しい思いとをしています。あなたが恨めしく思われます」
とお言いになった。返辞を申し上げるつもりでたてた声が、夢に襲われた声であったから、夫人が、
「まあ、どうなさいました、そんなに」
と言ったので源氏は目がさめた。非常に残り惜しい気がして、張り裂けるほどの鼓動を感じる胸をおさえていると、涙も流れてきた。夢のまったく醒《さ》めたのちで
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