桐壺《きりつぼ》には女房がおおぜいいたから、主人が暁に帰った音に目をさました女もあるが、忍び歩きに好意を持たないで、
「いつもいつも、まあよくも続くものですね」
 という意味を仲間で肱《ひじ》や手を突き合うことで言って、寝入ったふうを装うていた。寝室にはいったが眠れない源氏であった。美しい感じの人だった。女御の妹たちであろうが、処女であったから五の君か六の君に違いない。太宰帥《だざいのそつ》親王の夫人や頭中将が愛しない四の君などは美人だと聞いたが、かえってそれであったらおもしろい恋を経験することになるのだろうが、六の君は東宮の後宮《こうきゅう》へ入れるはずだとか聞いていた、その人であったら気の毒なことになったというべきである。幾人もある右大臣の娘のどの人であるかを知ることは困難なことであろう。もう逢うまいとは思わぬ様子であった人が、なぜ手紙を往復させる方法について何ごとも教えなかったのであろうなどとしきりに考えられるのも心が惹《ひ》かれているといわねばならない。思いがけぬことの行なわれたについても、藤壺《ふじつぼ》にはいつもああした隙《すき》がないと、昨夜の弘徽殿《こきでん》のつけこみ
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