れん》な相手に心の惹《ひ》かれる源氏は、それからほどなく明けてゆく夜に別れを促されるのを苦しく思った。女はまして心を乱していた。
「ぜひ言ってください、だれであるかをね。どんなふうにして手紙を上げたらいいのか、これきりとはあなただって思わないでしょう」
などと源氏が言うと、
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うき身世にやがて消えなば尋ねても草の原をば訪はじとや思ふ
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という様子にきわめて艶《えん》な所があった。
「そう、私の言ったことはあなたのだれであるかを捜す努力を惜しんでいるように聞こえましたね」
と言って、また、
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「何《いづ》れぞと露のやどりをわかむ間に小笹《こざさ》が原に風もこそ吹け
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私との関係を迷惑にお思いにならないのだったら、お隠しになる必要はないじゃありませんか。わざとわからなくするのですか」
と言い切らぬうちに、もう女房たちが起き出して女御を迎えに行く者、あちらから下がって来る者などが廊下を通るので、落ち着いていられずに扇だけをあとのしるしに取り替えて源氏はその室を出てしまった。
源氏の
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