のか帰って行こうとした。
「あまりにまじめ過ぎるからと陛下がよく困るようにおっしゃっていらっしゃいますのが、私にはおかしくてならないことがおりおりございます。こんな浮気《うわき》なお忍び姿を陛下は御覧になりませんからね」
 と命婦が言うと、源氏は二足三足帰って来て、笑いながら言う。
「何を言うのだね。品行方正な人間でも言うように。これを浮気《うわき》と言ったら、君の恋愛生活は何なのだ」
 多情な女だと源氏が決めていて、おりおりこんなことを面と向かって言われるのを命婦は恥ずかしく思って何とも言わなかった。
 女暮らしの家の座敷の物音を聞きたいように思って源氏は静かに庭へ出たのである。大部分は朽ちてしまったあとの少し残った透垣《すいがき》のからだが隠せるほどの蔭《かげ》へ源氏が寄って行くと、そこに以前から立っていた男がある。だれであろう女王に恋をする好色男があるのだと思って、暗いほうへ隠れて立っていた。初めから庭にいたのは頭中将《とうのちゅうじょう》なのである。今日《きょう》も夕方御所を同時に退出しながら、源氏が左大臣家へも行かず、二条の院へも帰らないで、妙に途中で別れて行ったのを見た中将
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