見えないがちの晩でございますわね。今夜私のほうへ訪問してくださるお約束の方がございましたから、私がおりませんとわざと避けたようにも当たりますから、またゆるりと聞かせていただきます。お格子をおろして行きましょう」
 命婦は琴を長く弾《ひ》かせないで部屋へ帰った。
「あれだけでは聞かせてもらいがいもない。どの程度の名手なのかわからなくてつまらない」
 源氏は女王に好感を持つらしく見えた。
「できるなら近いお座敷のほうへ案内して行ってくれて、よそながらでも女王さんの衣摺《きぬず》れの音のようなものを聞かせてくれないか」
 と言った。命婦は近づかせないで、よりよい想像をさせておきたかった。
「それはだめでございますよ。お気の毒なお暮らしをして、めいりこんでいらっしゃる方に、男の方を御紹介することなどはできません」
 と命婦の言うのが道理であるように源氏も思った。男女が思いがけなく会合して語り合うというような階級にははいらない、ともかくも貴女なんであるからと思ったのである。
「しかし、将来は交際ができるように私の話をしておいてくれ」
 こう命婦に頼んでから、源氏はまた今夜をほかに約束した人がある
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