が、不審を起こして、自身のほうにも行く家があったのを行かずに、源氏のあとについて来たのである。わざと貧弱な馬に乗って狩衣《かりぎぬ》姿をしていた中将に源氏は気づかなかったのであったが、こんな思いがけない邸《やしき》へはいったのがまた中将の不審を倍にして、立ち去ることができなかったころに、琴を弾く音《ね》がしてきたので、それに心も惹《ひ》かれて庭に立ちながら、一方では源氏の出て来るのを待っていた。源氏はまだだれであるかに気がつかないで、顔を見られまいとして抜き足をして庭を離れようとする時にその男が近づいて来て言った。
「私をお撒《ま》きになったのが恨めしくて、こうしてお送りしてきたのですよ。
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もろともに大内山は出《い》でつれど入る方見せぬいざよひの月」
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さも秘密を見現わしたように得意になって言うのが腹だたしかったが、源氏は頭中将であったことに安心もされ、おかしくなりもした。
「そんな失敬なことをする者はあなたのほかにありませんよ」
憎らしがりながらまた言った。
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「里分かぬかげを見れども行く月のいるさの山を
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