宮家から贈った衣箱の中へ、源氏が他から贈られた白い小袖《こそで》の一重ね、赤紫の織物の上衣《うわぎ》、そのほかにも山吹《やまぶき》色とかいろいろな物を入れたのを命婦が持たせてよこした。
「こちらでお作りになったのがよい色じゃなかったというあてつけの意味があるのではないでしょうか」
と一人の女房が言うように、だれも常識で考えてそうとれるのであるが、
「でもあれだって赤くて、重々しいできばえでしたよ。まさかこちらの好意がむだになるということはないはずですよ」
老いた女どもはそう決めてしまった。
「お歌だって、こちらのは意味が強く徹底しておできになっていましたよ。御返歌は技巧が勝ち過ぎてますね」
これもその連中の言うことである。末摘花《すえつむはな》も大苦心をした結晶であったから、自作を紙に書いておいた。
元三日が過ぎてまた今年は男踏歌《おとことうか》であちらこちらと若い公達《きんだち》が歌舞をしてまわる騒ぎの中でも、寂しい常陸の宮を思いやっていた源氏は、七日の白馬《あおうま》の節会《せちえ》が済んでから、お常御殿を下がって、桐壺《きりつぼ》で泊まるふうを見せながら夜がふけてから末摘花の所へ来た。これまでに変わってこの家が普通の家らしくなっていた。女王の姿も少し女らしいところができたように思われた。すっかり見違えるほどの人にできればどんなに犠牲の払いがいがあるであろうなどとも源氏は思っていた。日の出るころまでもゆるりと翌朝はとどまっていたのである。東側の妻戸をあけると、そこから向こうへ続いた廊がこわれてしまっているので、すぐ戸口から日がはいってきた。少しばかり積もっていた雪の光も混じって室内の物が皆よく見えた。源氏が直衣《のうし》を着たりするのをながめながら横向きに寝た末摘花の頭の形もその辺の畳にこぼれ出している髪も美しかった。この人の顔も美しく見うる時が至ったらと、こんなことを未来に望みながら格子《こうし》を源氏が上げた。かつてこの人を残らず見てしまった雪の夜明けに後悔されたことも思い出して、ずっと上へは格子を押し上げずに、脇息《きょうそく》をそこへ寄せて支えにした。源氏が髪の乱れたのを直していると、非常に古くなった鏡台とか、支那《しな》出来の櫛箱《くしばこ》、掻《か》き上げの箱などを女房が運んで来た。さすがに普通の所にはちょっとそろえてあるものでもない男専用の
前へ
次へ
全22ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング