ったい何者でしょう」
 こんなことを従者が言った。崖《がけ》を少しおりて行ってのぞく人もある。美しい女の子や若い女房やら召使の童女やらが見えると言った。
 源氏は寺へ帰って仏前の勤めをしながら昼になるともう発作《ほっさ》が起こるころであるがと不安だった。
「気をお紛《まぎ》らしになって、病気のことをお思いにならないのがいちばんよろしゅうございますよ」
 などと人が言うので、後ろのほうの山へ出て今度は京のほうをながめた。ずっと遠くまで霞《かす》んでいて、山の近い木立ちなどは淡く煙って見えた。
「絵によく似ている。こんな所に住めば人間の穢《きたな》い感情などは起こしようがないだろう」
 と源氏が言うと、
「この山などはまだ浅いものでございます。地方の海岸の風景や山の景色《けしき》をお目にかけましたら、その自然からお得《え》になるところがあって、絵がずいぶん御上達なさいますでしょうと思います。富士、それから何々山」
 こんな話をする者があった。また西のほうの国々のすぐれた風景を言って、浦々の名をたくさん並べ立てる者もあったりして、だれも皆病への関心から源氏を放そうと努めているのである。
「近
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