。源氏を形どった物を作って、瘧病《わらわやみ》をそれに移す祈祷《きとう》をした。加持《かじ》などをしている時分にはもう日が高く上っていた。
源氏はその寺を出て少しの散歩を試みた。その辺をながめると、ここは高い所であったから、そこここに構えられた多くの僧坊が見渡されるのである。螺旋《らせん》状になった路《みち》のついたこの峰のすぐ下に、それもほかの僧坊と同じ小柴垣《こしばがき》ではあるが、目だってきれいに廻《めぐ》らされていて、よい座敷風の建物と廊とが優美に組み立てられ、庭の作りようなどもきわめて凝《こ》った一構えがあった。
「あれはだれの住んでいる所なのかね」
と源氏が問うた。
「これが、某|僧都《そうず》がもう二年ほど引きこもっておられる坊でございます」
「そうか、あのりっぱな僧都、あの人の家なんだね。あの人に知れてはきまりが悪いね、こんな体裁で来ていて」
などと、源氏は言った。美しい侍童などがたくさん庭へ出て来て仏の閼伽棚《あかだな》に水を盛ったり花を供えたりしているのもよく見えた。
「あすこの家に女がおりますよ。あの僧都がよもや隠し妻を置いてはいらっしゃらないでしょうが、い
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