礼いたしました」
 こんな挨拶《あいさつ》をしたあとで、少し源氏の君の近くへ膝《ひざ》を進めて惟光朝臣《これみつあそん》は言った。
「お話がございましたあとで、隣のことによく通じております者を呼び寄せまして、聞かせたのでございますが、よくは話さないのでございます。この五月ごろからそっと来て同居している人があるようですが、どなたなのか、家の者にもわからせないようにしていますと申すのです。時々私の家との間の垣根《かきね》から私はのぞいて見るのですが、いかにもあの家には若い女の人たちがいるらしい影が簾《すだれ》から見えます。主人がいなければつけない裳《も》を言いわけほどにでも女たちがつけておりますから、主人である女が一人いるに違いございません。昨日《きのう》夕日がすっかり家の中へさし込んでいました時に、すわって手紙を書いている女の顔が非常にきれいでした。物思いがあるふうでございましたよ。女房の中には泣いている者も確かにおりました」
 源氏はほほえんでいたが、もっと詳しく知りたいと思うふうである。自重をなさらなければならない身分は身分でも、この若さと、この美の備わった方が、恋愛に興味をお持ちに
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