であろうが、身分をわきまえないしかただと反感を持っていた随身は、渡す物を渡しただけですぐに帰って来た。
前駆の者が馬上で掲げて行く松明《たいまつ》の明りがほのかにしか光らないで源氏の車は行った。高窓はもう戸がおろしてあった。その隙間《すきま》から蛍《ほたる》以上にかすかな灯《ひ》の光が見えた。
源氏の恋人の六条|貴女《きじょ》の邸《やしき》は大きかった。広い美しい庭があって、家の中は気高《けだか》く上手《じょうず》に住み馴《な》らしてあった。まだまったく源氏の物とも思わせない、打ち解けぬ貴女を扱うのに心を奪われて、もう源氏は夕顔の花を思い出す余裕を持っていなかったのである。早朝の帰りが少しおくれて、日のさしそめたころに出かける源氏の姿には、世間から大騒ぎされるだけの美は十分に備わっていた。
今朝《けさ》も五条の蔀風《しとみふう》の門の前を通った。以前からの通り路《みち》ではあるが、あのちょっとしたことに興味を持ってからは、行き来のたびにその家が源氏の目についた。幾日かして惟光が出て来た。
「病人がまだひどく衰弱しているものでございますから、どうしてもそのほうの手が離せませんで、失
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