手紙の内容は省略する。贈り物の使いは帰ってしまったが、そのあとで空蝉は小君《こぎみ》を使いにして小袿《こうちぎ》の返歌だけをした。

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蝉の羽もたち変へてける夏ごろもかへすを見ても音《ね》は泣かれけり
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 源氏は空蝉を思うと、普通の女性のとりえない態度をとり続けた女ともこれで別れてしまうのだと歎《なげ》かれて、運命の冷たさというようなものが感ぜられた。
 今日《きょう》から冬の季にはいる日は、いかにもそれらしく、時雨《しぐれ》がこぼれたりして、空の色も身に沁《し》んだ。終日源氏は物思いをしていて、

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過ぎにしも今日別るるも二みちに行く方《かた》知らぬ秋の暮《くれ》かな
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 などと思っていた。秘密な恋をする者の苦しさが源氏にわかったであろうと思われる。
 こうした空蝉とか夕顔とかいうようなはなやかでない女と源氏のした恋の話は、源氏自身が非常に隠していたことがあるからと思って、最初は書かなかったのであるが、帝王の子だからといって、その恋人までが皆完全に近い女性で、いいことばかりが書かれているで
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