かと問はで程ふるにいかばかりかは思ひ乱るる
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苦しかるらん君よりもわれぞ益田《ますだ》のいける甲斐《かひ》なきという歌が思われます。
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こんな手紙を書いた。
思いがけぬあちらからの手紙を見て源氏は珍しくもうれしくも思った。この人を思う熱情も決して醒《さ》めていたのではないのである。
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生きがいがないとはだれが言いたい言葉でしょう。
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うつせみの世はうきものと知りにしをまた言の葉にかかる命よ
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はかないことです。
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病後の慄《ふる》えの見える手で乱れ書きをした消息は美しかった。蝉《せみ》の脱殻《ぬけがら》が忘れずに歌われてあるのを、女は気の毒にも思い、うれしくも思えた。こんなふうに手紙などでは好意を見せながらも、これより深い交渉に進もうという意思は空蝉になかった。理解のある優しい女であったという思い出だけは源氏の心に留めておきたいと願っているのである。もう一人の女は蔵人《くろうど》少将と結婚したという噂《うわさ》を源氏は聞いた。それはおかしい
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