従兄《いとこ》の中将の子である点からいっても、私の恋人だった人の子である点からいっても、私の養女にして育てていいわけだから、その西の京の乳母にも何かほかのことにして、お嬢さんを私の所へつれて来てくれないか」
 と言った。
「そうなりましたらどんなに結構なことでございましょう。あの西の京でお育ちになってはあまりにお気の毒でございます。私ども若い者ばかりでしたから、行き届いたお世話ができないということであっちへお預けになったのでございます」
 と右近は言っていた。静かな夕方の空の色も身にしむ九月だった。庭の植え込みの草などがうら枯れて、もう虫の声もかすかにしかしなかった。そしてもう少しずつ紅葉《もみじ》の色づいた絵のような景色《けしき》を右近はながめながら、思いもよらぬ貴族の家の女房になっていることを感じた。五条の夕顔の花の咲きかかった家は思い出すだけでも恥ずかしいのである。竹の中で家鳩《いえばと》という鳥が調子はずれに鳴くのを聞いて源氏は、あの某院でこの鳥の鳴いた時に夕顔のこわがった顔が今も可憐《かれん》に思い出されてならない。
「年は幾つだったの、なんだか普通の若い人よりもずっと若いよ
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