たことを、お亡《かく》れになってからおしゃべりするのは済まないような気がしただけでございます。御両親はずっと前にお亡《な》くなりになったのでございます。殿様は三位《さんみ》中将でいらっしゃいました。非常にかわいがっていらっしゃいまして、それにつけても御自身の不遇をもどかしく思召《おぼしめ》したでしょうが、その上寿命にも恵まれていらっしゃいませんで、お若くてお亡《な》くなりになりましたあとで、ちょっとしたことが初めで頭中将《とうのちゅうじょう》がまだ少将でいらっしったころに通っておいでになるようになったのでございます。三年間ほどは御愛情があるふうで御関係が続いていましたが、昨年の秋ごろに、あの方の奥様のお父様の右大臣の所からおどすようなことを言ってまいりましたのを、気の弱い方でございましたから、むやみに恐ろしがっておしまいになりまして、西の右京のほうに奥様の乳母《めのと》が住んでおりました家へ隠れて行っていらっしゃいましたが、その家もかなりひどい家でございましたからお困りになって、郊外へ移ろうとお思いになりましたが、今年は方角が悪いので、方角|避《よ》けにあの五条の小さい家へ行っておいで
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