ます」
 素知らず顔には言っていても、心にはまた愛人の死が浮かんできて、源氏は気分も非常に悪くなった。だれの顔も見るのが物憂《ものう》かった。お使いの蔵人《くろうど》の弁《べん》を呼んで、またこまごまと頭中将に語ったような行触《ゆきぶ》れの事情を帝へ取り次いでもらった。左大臣家のほうへもそんなことで行かれぬという手紙が行ったのである。
 日が暮れてから惟光《これみつ》が来た。行触《ゆきぶ》れの件を発表したので、二条の院への来訪者は皆庭から取り次ぎをもって用事を申し入れて帰って行くので、めんどうな人はだれも源氏の居間にいなかった。惟光を見て源氏は、
「どうだった、だめだったか」
 と言うと同時に袖《そで》を顔へ当てて泣いた。惟光も泣く泣く言う、
「もう確かにお亡《かく》れになったのでございます。いつまでお置きしてもよくないことでございますから、それにちょうど明日は葬式によい日でしたから、式のことなどを私の尊敬する老僧がありまして、それとよく相談をして頼んでまいりました」
「いっしょに行った女は」
「それがまたあまりに悲しがりまして、生きていられないというふうなので、今朝《けさ》は渓《たに
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