、不都合なのは自分である、こんなに愛していながらと気がついた。

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「夕露にひもとく花は玉鉾《たまぼこ》のたよりに見えし縁《えに》こそありけれ
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 あなたの心あてにそれかと思うと言った時の人の顔を近くに見て幻滅が起こりませんか」
 と言う源氏の君を後目《しりめ》に女は見上げて、

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光ありと見し夕顔のうは露は黄昏時《たそがれどき》のそら目なりけり
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 と言った。冗談《じょうだん》までも言う気になったのが源氏にはうれしかった。打ち解けた瞬間から源氏の美はあたりに放散した。古くさく荒れた家との対照はまして魅惑的だった。
「いつまでも真実のことを打ちあけてくれないのが恨めしくって、私もだれであるかを隠し通したのだが、負けた。もういいでしょう、名を言ってください、人間離れがあまりしすぎます」
 と源氏が言っても、
「家も何もない女ですもの」
 と言ってそこまではまだ打ち解けぬ様子も美しく感ぜられた。
「しかたがない。私が悪いのだから」
 と怨《うら》んでみたり、永久の恋の誓いをし合ったりして時を送っ
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