てかかれることでもなかった。目だたぬ服装をして紀伊守家の門のしめられないうちにと急いだのである。少年のことであるから家の侍などが追従して出迎えたりはしないのでまずよかった。東側の妻戸《つまど》の外に源氏を立たせて、小君自身は縁を一回りしてから、南の隅《すみ》の座敷の外から元気よくたたいて戸を上げさせて中へはいった。女房が、
「そんなにしては人がお座敷を見ます」
と小言《こごと》を言っている。
「どうしたの、こんなに今日は暑いのに早く格子《こうし》をおろしたの」
「お昼から西の対《たい》――寝殿《しんでん》の左右にある対の屋の一つ――のお嬢様が来ていらっしって碁を打っていらっしゃるのです」
と女房は言った。
源氏は恋人とその継娘《ままむすめ》が碁盤を中にして対《むか》い合っているのをのぞいて見ようと思って開いた口からはいって、妻戸と御簾《みす》の間へ立った。小君の上げさせた格子がまだそのままになっていて、外から夕明かりがさしているから、西向きにずっと向こうの座敷までが見えた。こちらの室の御簾のそばに立てた屏風《びょうぶ》も端のほうが都合よく畳まれているのである。普通ならば目ざわりに
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