戸口から押し出した。夜明けに近い時刻の明るい月光が外にあって、ふと人影を老女は見た。
「もう一人の方はどなた」
 と言った老女が、また、
「民部《みんぶ》さんでしょう。すばらしく背の高い人だね」
 と言う。朋輩《ほうばい》の背高女のことをいうのであろう。老女は小君と民部がいっしょに行くのだと思っていた。
「今にあなたも負けない背丈《せたけ》になりますよ」
 と言いながら源氏たちの出た妻戸から老女も外へ出て来た。困りながらも老女を戸口へ押し返すこともできずに、向かい側の渡殿《わたどの》の入り口に添って立っていると、源氏のそばへ老女が寄って来た。
「あんた、今夜はお居間に行っていたの。私はお腹《なか》の具合《ぐあい》が悪くて部屋《へや》のほうで休んでいたのですがね。不用心だから来いと言って呼び出されたもんですよ。どうも苦しくて我慢ができませんよ」
 こぼして聞かせるのである。
「痛い、ああ痛い。またあとで」
 と言って行ってしまった。やっと源氏はそこを離れることができた。冒険はできないと源氏は懲りた。
 小君を車のあとに乗せて、源氏は二条の院へ帰った。その人に逃げられてしまった今夜の始末を
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